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2017年9月

2017年9月 8日 (金)

≪声の幽韻≫松平頼則から奈良ゆみへの書簡 95

松平頼則氏に関しての奈良ゆみさんの所蔵する手稿など 78
「松平頼則氏から奈良ゆみさんへ送られた手紙Fax」  第77


1989年11月4日



Ma chérie !  Mlle Yumi

 今日は何と嬉しい日でしょう! 思いがけずにMlle Yumi
の手紙が来るなんて! しかも疲れていらっしゃるのに!
長い手紙! 素敵な内容!
 私の方は淋しさをまぎらす爲に「桂」の伴奏をPiano version
にしてPhotocopisteに送り思いがけず早く仕上って2日
に家に届けてくれるといって来たのに その日になってTaxi
がつかまらないから3日になるといって来ました。
 暦を見ると3日(祭)土・日は郵便局が休み。だから月曜
(現時点で明後日)でなければ発送出来ません。フメンは机の横
で眠っています。結局この手紙と同時に着くでしょう。


(編者注/Ma chérie !  Mlle Yumi !は、最愛の人!ゆみ嬢!。 Piano versionは、ピアノ版。Photocopisteはコピー業者。後年には「コピーセンター」と書かれた。Taxiは、タクシー。フメンは譜面)。



Img_4257


 9月10月そして11月もスケジュールが一杯なのは精神的
にも肉体的にも疲れるのは当然ですが Parisでこのような
状況にいるMlle Yumiはほんとうに大したものです。
 Mlle Yumiの成功の爲なら私はどんな辛棒でも
しようと決心しているのです。2ヶ月の手紙なしのことなど!
 Fontecの原稿にも「スケジュールに追われ快く疲勞し
忽ちフェニックスの様に彼女は生き生きとなる」と書き
ました。よく夢を見ることも それは表現と演劇性
との結合の原型である」とも。


(編者注/Parisは、パリ。FontecはCDのレーベル名。1989年11月25日に発売された『奈良ゆみ/サティのうた』奈良ゆみ(S)ジェフ・コーエン(P)FOCD3256 のために松平氏は文を書いた)。

 毎日毎日cassetteを聴きます。そして聴けば聴くほど
Mlle Yumiが恋しくなります。それの繰り返えし
Tendrementの歌詞そのまゝの病状です!
始めは全体を一つのMasseとして聴いていました。
今は細かく一曲一曲をきいています。
そこで気がついた事は(何と怠慢!)Mlle Yumiの1粒
1粒の音に対するsoin。


(編者注/cassetteは、カセットテープ。Tendrementは、サティの歌曲「愛をこめて」。CDの最終曲として収められている。Masseは、かたまり。Soinは、配慮)。



Img_4258


 私が無名でヨーロッパのFestivalに出た頃のことを
思い出します。その頃のS.I.M.CのFestivalは現在の
ように政治政略や物質的なからみもなく 実力対
実力の文字通りの真剣勝負でした。日本は芸術家を
生かしも殺しもしません。ヨーロッパでは生きるか死ぬか
です。当時の有名なヨーロッパの作曲家達に対して
私は一音一音をそれこそ命がけで書きました。
会場で下らない作品を出した作曲家は翌日から
誰も握手もしません。完全な黙殺体刑です。
いわば劍の下をくぐって来ました。
私はそれをMlle Yumiの演奏の中に感じます。
ひしひしと、そしてmes affections respectueuses 
が分離してaffectionsとrespectsという2つの
要素でMlle Yumiを愛しているわけです。


(編者注/S.I.M.Cは、Socit Internationale de la Musique Contemporaine (SIMC) 国際現代音楽協会。Festivalは、同協会主催の現代音楽祭。 mes affections respectueusesは、私の尊敬する愛情)。

 Mlle Yumiの疲労のひどいのも私は心配しています。
けれどもFontecの原稿に 快く疲れ と書いたのはよく戰った
という満足感を表現したかったからです。だから忽ちFenixの
ように生きかえるのです。
 Trois mélodies sans parolesやTrois mélodies de 1886
これ等は恍惚境へ私を誘います。夢のような美聲!
 Allons-y chochotte,  La diva de l’Empire,  La grenouille
Américaine,  Je te veux, そして un diner a l’Elysee   etc etc
に示された高度なtechniquesとinterprétations .
特にun dinerは音楽に於ける数少ない風刺の美学に属する
もので要求される表現の幅は広いのです。それを見事に
征服しているMlle Yumi ! 独りでBravo ! と拍手を送って
います。


(編者注/Fenixは、不死鳥。以下、サティの歌曲の題が列挙される。「言葉のない3つの歌曲」「1866年の3つの歌曲」「いいとも、ショショット」「エンパイア劇場の歌姫」「アメリカ人の娼婦」「あんたがほしいの」、そして「エリゼ宮の晩餐会」などなど。techniquesとinterprétationsは、技術と表現。Bravo ! は、ブラヴォー !)。


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 私自身は未だ作曲能力もあり、Mlle Yumiに対しても
前述のTendrementのような気持も持ってる つもり ですが
最近 細川氏の先生のKlaus HuberがTokyoに来て
Concertをやった時、私は帰りの車をつかまえるのが大変
だらうと思っていきませんでしたが 彼が頼暁をつかまえ
「お前のおやじはもう大変な年寄りだが未だ生きてるか?」といった
のだそうです。彼とはずゐ分古い馴染みです。彼があの
Barbeを生やさなかった頃から。
 も一つ上野学園の秘書から学園創立85周年に
先生も功せき者の1人として(私は何も功せきなんかない)
表しょう したいけどお1人でいらっしゃれますか?というのです。
(勿論2つとも善意の言葉ですが それが一層!)


(編者注/細川氏は、作曲家の細川俊夫氏(1955- )。Klaus Huberは、作曲家のクラウス・フーバー氏(1924- )。頼暁は、ご子息の作曲家・松平頼暁氏(1931- )。Barbeは、ひげ)。

それ故 今日のMlle Yumiの手紙は2重にも3重にも私は嬉しい!
私に生きている歡びを実感させ、Mlle Yumiの心の一部にでも
私が存在している らしい ことを知り、私の作品によるsoirée
のことにも觸れられ、そして28日の演奏のことも、そして
最後の行 “永遠の森の中でうたう小鳥になりたい……
で 私は誰にも見せない涙にくれています。
とにかく早く会いたい! いろいろのことあれもこれも......話したい!

Je vous embrasse de tout mon cœur,
Et je vous envoie mille baisers.
       Toujour votre
       Yoritsuné

これから又cassetteをききます。
“かえるの気持遊び”って何でしょう? 今度きかせて。


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(編者注/soiréeは夜。Je vous embrasse de tout mon cœur, Et je vous envoie mille baisers. Toujour votre Yoritsuné は、私は心のすべてであなたを抱擁します。そして私はあなたに千のキスを送ります。あなたの頼則)。

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