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2016年3月

2016年3月27日 (日)

≪声の幽韻≫松平頼則から奈良ゆみへの書簡 91

松平頼則氏に関しての奈良ゆみさんの所蔵する手稿など 74
「松平頼則氏から奈良ゆみさんへ送られた手紙Fax」  第73



<1989年9月16日>その2

 何故このような構成になったかというと 本来は
Ⅱ+Ⅲ、Ⅳ+Ⅴ、Ⅵ+Ⅶ、Ⅷ+Ⅸは同時進行する筈です。
つまり歌が伴奏部と考えれば普通の歌曲の伝統的
構成です。

 私の考えたことは時間をずらすことです。
当然同時進行するべき2つの要素のうち一つをわざと
後らせて、そこに或る心の行為の無言の重複を企図しています。
ですから5 syllabes なり7 syllabesなりを歌い、回想の意味で
伴奏の間にその内容を演技しても(パントマイムの様式で)
よいのです。


Yadorigi_niou_nakanokimi


 そこで歌の内容の問題が重要となります。
先づ藤壺、源氏が自分の母に似ている帝の寵姫 藤壺に思いを
寄せる。藤壺は体の具合が悪く実家に帰っている。
 この当時の貴婦人は侍女とか乳母とかいう仲立ちがなければ
男が近よることは出来ない。以下 円地文子の源氏物語から
抜粋して写します。

 ある夜 源氏は王命婦(藤壺の宮の侍女)をおどしたり
すかしたりなさった果てに、命婦も是非ないこととあきらめた
らしく、藤壺の宮にはご相談せず、おやすみになっている
御帳台の内へ源氏の君をお連れに、自分はそっと
その外へ控えていた。

Genji_emaki_yadorigi_2


 源氏の君はすやすやと寝入っていらっしゃる藤壺の宮
のごようすを、うっとりとしばらく眺めていらっしゃったが、
白の単(ひとえ)の絹を一つだけまとって横たわっていらっしゃる宮
の御寝顔の美しさ、黒い睫毛(まつげ)におおわれた瞼や、
ふくよかな御頬の照り輝き方、唇はまるで桜のほころび
かけたようで、思わず御うなじをそっと抱いてしまった。

みごとな黒髪が御髪箱の中から宮の上身が抱きかかえ
られるにつれてするすると上がってきて、それといっしょに何の香
であろうか、えもいわれぬ香りが源氏の君の香と薫り合って、
ほの暗い帳台の中は、それ自身が大きな花の匂いに包まれて
いるようであった。


Genji_emaki_yokobue


 宮は、夢うつつのうちに、自分と源氏の君とが一つになった
ような錯覚に埋もれて、軽く抗うようにお顔をゆすられたが、
それがほんとうの抵抗でないことは、ご自身にも相手にも
よくわかっていた。こんな場合、多くの女は取り乱すか
頑に拒むかが普通であるが、宮には少しも乱れた
ところもなく、さればといって、君に抱かれることを
厭っていられるのでもなく、まことに素直なうちに
端麗な気品を持っておいでになる。

 体と体が近よれば近よるほど、もつれ合えばもつれ
合うほど、藤壺の宮の底知れず深くやわらかく、優しい
女の芯は、源氏の君にとって世にたぐいないものとして、
恍惚のあいだも耽美されるのであった。


No02_img01


 見てもまた逢ふ夜稀なる夢の中に
  やがてまぎるるわが身ともがな

 と涙にむせ返って言う源氏の様子を見ると
さすがに宮も悲しくて、

 ◎世語りに人や伝えん類ひなく
   憂き身をさめぬ夢になしても

源氏の君もいつまでも名残りをおしんではいらっしゃれ
ないので 宮の召し物などつくろってあげて、人形でも
寝かすようにお褥の上に横たえてから、ご自分も衣類を
整えて外へ出られた。



((編者注/『源氏物語による3つのアリア』―ソプラノ、笙、フルートと箏のための―(1990)の第1曲が<◎>がつけられた「世語りに人や伝えん類ひなく 憂き身をさめぬ夢になしても」(第五帖「若紫」)。
また先に引用された「見てもまた逢ふ夜稀なる夢の中に やがてまぎるるわが身ともがな」も「若紫」にある)。
(編者注/それでは続きは、次回更新時に)。

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