≪声の幽韻≫松平頼則から奈良ゆみへの書簡 90
松平頼則氏に関しての奈良ゆみさんの所蔵する手稿など 73
「松平頼則氏から奈良ゆみさんへ送られた手紙Fax」 第72
<1989年9月16日>
Ma chérie ! Mlle Yumi !!
飛行場からの第一声、そして出発まぎわのTel.
この2つのa la manière de Mlle Yumiの表現は
私にとってはfff !!!のよろこびでした。
沈む前の残影の中に突如光り輝くMlle Yumiの
その豊かな高い芸術性、美貌、intelligence,
香り高いélégance , 一ヶ所でも欠点のないMlle Yumi
の存在を知ったことで一方では自分の運命を恨めしくも
思います。
遠く離れて住む人のことを想ふ淋しさと苦しさは
始めからわかりきったことでした。
France人の口ぐせではありませんがC’est la vie !
たゞたゞ il faut travailler pour ne pas penser.
(編者注/Ma chérie ! Mlle Yumi !! は、いとしい人 ! ゆみ嬢 !! Tel.は、電話。a la manière de Mlle Yumiは、ゆみ嬢の流儀、仕方。Intelligenceは、知性。Franceは、フランス。C’est la vie ! は、それが人生さ! il faut travailler pour ne pas penserは、考えることなく働かなければならない)。
(編者注/このあたりの部分が一枚だけ、下書きされたものが見つかっている。以下に記す)。
<1989年9月16日>
Ma chérie! Mlle Yumi !!
航空旅行の経験のある人なら飛行機から降りて疲れて
すぐTéléphonerすることが如何に面倒か 又出発の
直前にあのあわただしさの中でTéléphonerすることが
如何に神経をいらだたせるか充分に理理解出来ます。
私はMlle Yumiのこの2つの恩恵を受けたことで
嬉しさと誇りとを感じました。
ほんとうに心からのMerciを述べます。
その上 不思議な説明出来ない énergieを与えて
下さったことも。
16日間で2曲書き上げられたのですから。
今 copyが届いたのでこうして手紙を書いています。
今日は土曜日ですから発送は月曜日19日になるで
しょう。
私はMlle Yumiに会えた事を少し晩年すぎましたが
その運命に感謝しています。
秀れた芸術性と美貌とintelligenceと一所でも欠点
を持っていないMlle Yumiの存在を知ったことで一方では
自分の運命を恨めしくも思います。
遠く離れ住む人のことを考えることの淋しさと
苦しさは始めからわかりきったことです。
フランス人の口ぐせではありませんがC’est la vie !
travaillez ! travaillez !! pour ne pas penser !!!
それしかありません。
今copyが届いたのでこの手紙を書いています。
Mlle Yumiに觸発されて夢中で16日の間に書いた
2曲。 それ等がどんなものであるか作曲者の
自分には判だん出来ません。Mlle Yumiのréaction
を知りたいだけです。
毎日が心の空虚のうちに過ぎます。
源氏は他の場面を書いています。とにかく虚しい!
長年の経験で書くことは書けてもartisantにだけには
ならないように心がけてはいます。
(編者注/travaillez ! travaillez !! pour ne pas penser !!!は、働け ! 働け !! 考えずに !!! réactionは、反応、手ごたえ。Artisantは、職人)。
さて これから今度の作品について作曲という一種の
犯罪経過について書きます。
Mlle Yumiによる電撃的ショックによって事が始まります。
何故私が今度のformeを考え出したのか これも秒
単位で理由はわかりません。
根底には私の“短歌”に対するDogmatiqueな
考えがあったことは事実です。
(編者注/formeは、かたち、形式。Dogmatiqueは、独断的)。
上 ① 5 syllabesによる開始=これから述べられる
の 事象や心象の場所や部分の指示
句 ② [7+5] syllabes = ここで一応の問題提起があります。
下 ③ [7+7] syllabes = ここで結論が出ます。前の7 syllabes
の は結論の前提、最後の7 syllabesでaffirmatifか
句 négatifかの決定が出ます。
(編者注/syllabesは、音節。Affirmatifは、肯定的。Négatifは、否定的)。
試みに何か御存知の短歌を以上の構図に当て
はめてみて下さい。大がい当てはまると思います。
そこで作品の構成になりますが
上 Ⅰ 全体のintroduction
Ⅱ 短歌の ① 5 syllabesがsoloで歌われます
の Ⅲ その内容の思出 或は説明(ピアノ・ソロ)
Ⅳ ② [7+5] のsyllabesがsoloで歌われます。
句 Ⅴ Ⅲと同様の内容(ピアノ・ソロ)
下 Ⅵ 結論の最初の ③ 7 syllabes soloで歌われます
の Ⅶ Ⅰ及びⅢと同様の内容(ピアノ・ソロ)
句 Ⅷ 結論の最後の7 syllabes ③ soloで歌われます。
Ⅸ 全体のcoda (Ⅷの後奏の意味も含めて) (ピアノ・ソロ)
(編者注/introductionは、導入部。soloは、ソロ。この場合は独唱)。
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