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2015年9月

2015年9月26日 (土)

≪声の幽韻≫松平頼則から奈良ゆみへの書簡 84

松平頼則氏に関しての奈良ゆみさんの所蔵する手稿など 67
(「松平頼則氏から奈良ゆみさんへ送られた手紙Fax」  第66


<1989年6月26日>その2


 それから昨日イタリーのZerboniから 1988年度版
のCatalogueが来ました。
 France (Paris) の代理店は下記の通りです。
 Alphonse Leduc
  175 Rue St Honoré
  75040 Paris Cedex 01


(編者注/Zerboniはツェルボーニ。イタリアの楽譜出版社 Edizioni Suvini Zerboni。1956年の「フィギュール・ソノール」、1957年の『右舞』、1959年の『舞楽組曲』、1962年の『舞楽』など、ツェルボーニから出版された松平頼則氏の作品は数多い。Catalogueは、カタログ。France (Paris)は、フランス(パリ)。Alphonse Leducは、楽譜出版のアルフォンス・ルデュック社。以下は住所)。


Esz5435
 去る6月15日にParisで勉強したという泉千春という
歌手がRavelのシェラザード、PoulencのPaganini  それに
私の古今集を歌いました。
 Mlle YumiのRepertoirと仝じようなので Mlle Yumi
と置き換えて聴きました。
 勿論 空想なのですからC’est en vain !


(編者注/泉千春氏については不詳。Ravelのシェラザードは、モーリス・ラヴェル〈1875-1937〉の『シェエラザード』(Shéhérazade)。PoulencのPaganiniは、フランシス・プーランク〈1899-1963〉の『パガニーニ』。歌曲集『変容』(メタモルフォーズ)の第3曲。古今集は、松平頼則の『声とピアノのための「古今集」』(1939-45)。Repertoirは、レパートリー。C’est en vainは、むなしい)。

今年は怪我ばかりしているのでDocteurから 注意力
が散漫であるから気をつけるようにといわれました。
 心臓の心電図はMusique minimaleの譜面のように


Img383

で全く問題がないそうです。


 何しろ現在の私の心象風景は落陽で その陽の落ちる
前の最後の輝きの中にMlle Yumiがいます。
 CharmanteでBrillanteなお便りが来ないかナと
今日も待ち焦れています。

(編者注/Docteurは、医者。Musique minimaleは、ミニマル・ミュージック (Minimal Music) 。音の動きを最小限に抑え、パターン化された音型を反復させる音楽。現代音楽の1ジャンル。Charmanteは、魅惑的な。Brillanteは、輝かしい)。

ここまで書いた時に家のPostに郵便の入る音がしました。
私は直感的にMlle Yumiからだナと思い(確信し)_行ってみると
Postの中にLetterだけでなくPhotosの封筒も見つけました。
 この直感は正にTélépathieそのものでした!
ほんとに嬉しかったのです。


 先ずPhotosの方から封をあけ思わず何と美しく
charmeがあるのだろう!と心の中で叫びました。
しかも1枚だけでなく...。その中でも
Signatureのあるのが一番好きです。


(編者注/Postは、郵便受け。Letterは手紙。Photosは、写真。Télépathieは、テレパシー。精神感応。Charmeは、魅力。Signatureは、署名)。


20080706133332


Mlle Yumiはles yeux enchantés_それは不思議な妖しさ!
を持っていて私の心にときめきのような反応を起させます。
始めてお会いした時 私は大勢の人の中から直ちに
Mlle Yumiを識別出来たのは勿論身についたéléganteな
atmosphèreだけでなく あの妖精の眼でした!


 これから毎日仕事を始める前にMlle Yumiのportrait
をしばらく眺め、そして疲れた時に又眺めるという日課
が繰り返えされるでしょう。Merci mille fois ! 


(編者注/les yeux enchantésは、魔法の眼。Éléganteは、優雅な。Atmosphèreは、雰囲気)。


Photo


ひなげしの花は最初のお手紙の中にも そしてあの亀
の話もその中に書かれていました。両方とも楽しく見ました。
 更にMlle Yumiの手紙の 私の心をよろこばせる数々
の美しいMélodiesのPhrases。 とりわけ夢の裡に
Roseauの中の眠れるYumiはギリシャ神話のnymphe
のようでL'après- midi d'un fauneでなく
La nuit d’un fauneとしての私を魅了したことでした。


(編者注/MélodiesのPhrasesは、メロディーのフレーズ。Roseauは、葦。nympheは、ニンフ。ギリシャ神話で、女の姿をして、おもに川や泉の辺に出て来る精霊。妖精。L'après- midi d'un fauneは、牧神の午後。ドビュッシーの『牧神の午後への前奏曲』にちなんで。La nuit d’un fauneは、牧神の夜)。


(それではまた、次回更新時に。まだ続きます)。

2015年9月15日 (火)

≪声の幽韻≫松平頼則から奈良ゆみへの書簡 83

松平頼則氏に関しての奈良ゆみさんの所蔵する手稿など 66
(「松平頼則氏から奈良ゆみさんへ送られた手紙Fax」  第65


<1989年6月26日>その1

Ma très chère Mlle Yumi Nara
(編者注/Ma très chère Mlle Yumi Naraは、とてもかわいいゆみ嬢)。

御元気で益々御活躍のことと歓んでいます。
私の方は又も怪我で引こもっています。
といっても毎日左足にサンダル 右足にクツをはいて
家からタクシーの通る通りまで歩き それから病院です。
実にBêtise! そのものの怪我をしました。

(編者注/Bêtise!は、愚かしい)。

頼暁の家内が来て、坐って話をして 帰りぎわに
立ったらシビレて足がおかしくなって(よくあることです)
倒れた時に
Img010

ここの骨にひゞが入って全治3週間!


(編者注/頼暁は、松平頼則の長男の松平頼暁氏〈1931-〉。作曲家、生物物理学者)。

あと一週間細い板をあてゝいなければなりません。
そんなわけでつれづれなるまゝに雅楽の本を読んで
いたら「唱歌」について訂正しなければならない点が
あり、(右肩も少々痛めているので乱筆でお許しください)
ペンを取りました。
 
唱歌について山井基清氏の次のような説明があります。


(編者注/山井基清 やまのい・もときよ〈1885-1970〉明治―昭和時代の雅楽家。宮内省楽師となり,笛,箏(そう),左舞のほか洋楽器も担当。1934年楽長。「催馬楽(さいばら)訳譜」を刊行するなど古歌曲の研究・復元につとめ,また雅楽風洋楽「平調のメヌエット」などを作曲した。東京出身)。

Ca390036001


「古昔から、雅楽のうち器楽、すなわち狛楽、唐楽
の教習に重視されてきている節唱法とでもいうべきもので
笛、ひちりきの吹く、それぞれの器楽曲の旋律を、或る一定
の詞をつけて唱うことをいう。階名唱法(ソルミゼーション)
に似たところも多少あるが たとえば「ト・ロ・タ」と唱う
所など必ずしも仝じ音高の音と見るわけにゆかないように、
唱うのに都合よく、口調のよいように、詞をつけて唱う。


これは単に曲を覚えこますのが その主眼ではなく
譜によってはとうてい表示できない いろいろ大切な
nuanceをこの唱歌によって教え込み、伝えるという
重大な目的がある。」(私の唱歌も仝様な目的で書かれています)
 雅楽家は楽器を奏する場合 必ず心のうちで当面の
曲の唱歌をしながら演奏する。


(編者注/仝じは、同じ。nuanceは、ニュアンス。表現・感情・色彩などの微妙な意味合いや色合い。また,そのわずかな差異。仝様は、同様)。

 それから 雅楽の楽器では全音反複ton répète
が出来ないので(FlのFlatterzungeのように)その場合は

Img011

のように大体 全音下の音を使う。Sol→laというように。
(このécritureも私のShôgaにしばしば出て来ます)


(編者注/FlのFlatterzungeは、フルートの奏法のひとつのフラッターツンゲ。巻き舌やうがいをするように喉を震わせることにより、トレモロ的効果を生み出す奏法。Écritureは、エクリチュール。書き方)。

①更に唱歌では書かれた音と発音がちがうこと。
 即ちHa=Fa  Hi=Fi  Hu=Fu  He=Fé  Ho=Fo
  と発音する
②上述の
Img011b

の場合 hoとあればFoに
HaとあればFaに、hiとあればFiに


これがこの手紙を書いた重要な点です。即ち
そこでお送りしたShogaは
①P2の2行目 hoはFoに  ⑤P6の1行目  hoはFoに
②P3の2行目 hoはFoに  ⑥P6の2行目  hi はFiに
③P4の1行目 haはFaに  ⑦P8の1行目 hoはFoに
④P4の2行目 hi はFi に  ⑧P8の2行目 hi はFiに
 以上8ケ所 訂正しなければなりません。


(編者注/日本語のハ行の発音が「ハヒフヘホ」になったのは、江戸時代はじめのこと。それ以前は「ファ・フィ・フ・フェ・フォ」と発音されていた。長崎で出版されたキリシタンたちが作った本『平家物語』〈1592〉での『日本』の表記は「NIFON」であり、『平家』は「FEIQE」になっている。
 また、室町時代のなぞなぞに『ははには二たびあいたれども ちちには一度もあわず』、それはなあに? というものがあるが、答えは「くちびる」。『ファファ』の発音の時代のなぞかけである。
 さらに以前は、ハ行は「パ・ピ・プ・ペ・ポ」と発音されたと推測されている)。


Feiqe


(それではまた、次回更新時に)。

2015年9月 4日 (金)

≪声の幽韻≫松平頼則から奈良ゆみへの書簡 82

松平頼則氏に関しての奈良ゆみさんの所蔵する手稿など 65
(「松平頼則氏から奈良ゆみさんへ送られた手紙Fax」  第64

<1989年5月27日> その3


 Triptiqueの他の2つの作品の歌とピアノの関係
について書いておきます。

 
(編者注/Triptyqueは、トリプティク。作品目録にはTriptyque IIb Shôga/Shôga 1989として掲載されている)。

ⅠのDeux étoilesは 雅楽の朗詠というgenreに
入っていることは既に説明しましたが、雅楽の演奏の場合
伴奏は笙、横笛、ひちりきなどで歌のメロディを
ユニゾン或はオクターブでなぞるだけの簡単なものです。

 
(編者注/Deux étoilesは「二星」(じせい)。作品目録には、Jiséï (Deux Etoiles) 1989 Soprano (jouant perc) et pianoとして掲載されている。Genreは、ジャンル。種類、分野、部門)。


_p12

(「更衣」の楽譜)

私の音楽的数学ではユニゾンは0に等しく、(つまり
‟Mono – mélodie″と解釈して)自由な伴奏を書くことを
許容すると考えます。従ってDeux étoilesの場合には
Mélodieが音列技法でdéforméeされているので
Pianoは音列技法にarpège奏法を加えて書かれています。


(編者注/Mono – mélodieは、単旋律。Déforméeは、デフォルメ。変形。Pianoは、ピアノ。arpègeは、アルペジオ。分散和音)。

 ⅡのShôgaはsolfègeではありますが むしろVocalise
の要素が加わり琵琶と箏のfigurationsから誘導
された形態をとっています。 RavelのVocalise ‟Habanera ″
の歌とPianoの関係を想起して下さればよいと思います。
(勿論styleは全然違いますが)


(編者注/Shôgaは、「唱歌」。Solfègeは、ソルフェージュ。読譜訓練。Vocaliseは、ヴォカリーズ。歌詞を伴わずに母音のみによって歌う歌唱法。Figurationsは、旋律、和音の装飾。
Ravelは、フランスの作曲家、モーリス・ラヴェル(1875‐1937)。Habaneraは、ハバネラ。原題はVocalise-etude en forme de Habanera(ハバネラ形式のヴォカリーズ練習曲。Styleは、スタイル)。

Image00011_2


(ラ・プレイヤードの創刊号 1)

 今日の手紙は多分にpédantesqueで退屈なさった
でしょう。 これも私達を結びつけているla musique
et l’artの仕業で避けて通れない‟un chemin du paradis″
とお思い下さい。 


(編者注/pédantesqueは、ペダンティック。衒学的な。学問・知識をひけらかす。la musique et l’artは、音楽と技芸、芸術。un chemin du paradisは、楽園への道程)。

 8月がどんなに待ち遠しいことか! 待つ時は長く
会っている時は短いという時間の不思議な戯れは
昔も今も変りません!


Je vous embrasse avec l'affection gracieuse、
ma très chère Mlle Yumi, croyiez mes voeux pour
votre beau succès.
Toujours votre tout dévoué
Yoritsuné


(編者注/私は優雅な愛情をもってあなたを抱きしめます。とてもかわいいゆみ嬢、あなたの美しい成功への私の願いを信じています。つねにあなたの最も献身的な 頼則)。


Image00021_2



 le 27 maiの日付の手紙を2つのPartitionsと一緒に
出さなかったのはPartitionsを送って了ってからmanuscript
を眺めているうちに 声部の音域に訂正しなければ
ならない個所があるのに気がついたためです。


(編者注/le 27 maiは、5月27日。Partitionsは、スコア。総譜。Manuscriptは、手稿)。

 つまり 昔 Parisの通りで教育mamaらしいのがl'école
primaireの自分の男の子に ‟Considéré ! Réfléchir !
et bien penser !″といったのを思い出した結果です。 


(編者注/Parisは、パリ。Mamaは、ママ。母親。l'école primaireは、小学校。Considéré ! Réfléchir ! et bien penser ! は、「考えなさい!」と、同じような意味を持つ語が並ぶ。あえて訳せば「注意深く見つめなさい!反省して考えなさい!そしてよい判断をなさい!」。ちなみにフランスの哲学者、数学者のブレーズ・パスカル〈1623‐1662〉の『パンセ』(Pensées)は、日本語でも「パンセ」が一般的である)。

 その為 Mlle Yumiに大変御迷惑をかけることに
なって了いました。お許し下さい。新たにお送り
するpartition corrigéeの訂正表を下に書きます。


(編者注/partition corrigéeは、補正後のスコア。総譜)。


Img009


(ピアノは変更ありません。先着の2 partitionsの中の1部で間に合います)


(それではまた、次回更新時に)。

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