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2014年5月

2014年5月26日 (月)

≪声の幽韻≫松平頼則から奈良ゆみへの書簡 45

松平頼則氏に関しての奈良ゆみさんの所蔵する手稿など 29
(「松平頼則氏から奈良ゆみさんへ送られた手紙Fax」  第28回)。


<1996年8月5日>その2


体の方も実はあんまりよくないのです。
夜中に胸が痛んだり、そばに寝ている人を起さないために
独りでこう薬を貼ります。
痛みは止りますが直ったわけではないのです。

(編者注/こう薬は、膏薬。はり薬の一種で,家庭薬として古くから使われてきた剤形(薬の形)である。皮膚の保護作用,打身,捻挫,肩こり,神経痛,あかぎれなどに広く使われている。皮膚に薬効成分を密着させて徐々に吸収させる。布,プラスチックのフィルムに薬成分をのばしてつけてある絆創膏タイプのものと,昔からある厚くのばしてつけてあるプラスター塊タイプのものがある。湿布)。
そのうちに状況を見て出版希望のリストを作りましょう。



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Yumiが私の為にSalzburgにinviterされる力になったり、恐らくは私が
Disparaîtreした後でも出版してくれるであろうDurandにPromotionしてくれたり、私の作品(複数)を度々歌ってくれたり、又歌ってくれるであろうことと思うと、私は一生Yumiのことをどんなにありがたく感じているか、
私のつたない表現力ではいい盡せません!
これはentre₋nousだけのことで第3者には絶体にわかりませんね!


(編者注1/Salzburgにinviterされる、とは<1996年3月27日>書簡の注に詳しく書いたこと。すなわち、1996年5月6日から17日にかけて、松平頼則氏は、Hochschule für Musik und darstellende Kunst „Mozarteum“  、 (「モーツァルテウム」音楽と舞台芸術のための大学『ポエティーク〈詩学〉』)という音楽講座のため、オーストリアのザルツブルク、モーツァルテウムに招かれた。

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(Klaus Ager)

このきっかけになったのが当時のモーツァルテウムの学長、Kraus Ager(クラウス・アーガー)氏がパリで奈良ゆみ氏と或るコンサートの打ち上げで知りに合ったことだった。アーガー氏は自作の楽譜をゆみ氏に送り、返礼として、ゆみ氏は『源氏物語による3つのアリア』が入った『松平頼則作品集Ⅰ』(ALM ALCD-39)を送った。



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すると1か月後に松平頼則氏をPOETIKにお招きしたい、と連絡が入った。その前後にPOETIKに招かれていたのが、尹 伊桑(ユン・イサンとルチアーノ・ベリオ。アーガー氏は日本を代表する作曲家として松平頼則氏を招いたのだった)。

Foto

(Klaus Ager)

(編者注2/Disparaîtreは、姿を消す。DurandにPromotionは、フランスの楽譜出版社にプロモーションする。出版を働きかける。entre₋nousは、われわれの間。絶体は、原文のまま)。


Yumiもくれぐれも体を大事にしてね!
私の人生に深い影をくっきりと刻みつけた
人間の理解出来ないl’amourというものの力を残り少い時間に感じています。

では又
Yumiをdérangerすることをおそれ乍ら
Faxを待っている私を許して下さい!
Je t'embrasse avec beaucoup d'affections !
Yoritsune


(編者注/l’amour は、愛。dérangerは、乱す。心乱す。
 Je t'embrasse avec beaucoup d'affections ! は、私は大きな愛情をもってあなたを抱きしめる)。

(それではまた、次回更新時に)。

2014年5月19日 (月)

≪声の幽韻≫松平頼則から奈良ゆみへの書簡 44

松平頼則氏に関しての奈良ゆみさんの所蔵する手稿など 28
(「松平頼則氏から奈良ゆみさんへ送られた手紙Fax」  第27回)。


<1996年8月5日>その1

Chère Yumi !
その後Fatigueは如何です?

le 31 juilletのFaxで “感謝の気持を心がけている”と書いてあって
私はangeを見る思いがしました。

(編者注/Chère Yumi は、かわいいゆみ。Fatigueは、疲労。
le 31 juilletは、7月31日。Angeは、天使)。


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(葛飾北斎 怒涛図)

今日はとうとう作品が終りました。
疲れきっています。

いつか話したavionの中でのimageです。
5月末から6、7月かかりました。

3つのリズム・パターンがあって、それが全曲を支配します。
波のリズムを3種類抽象化したものです。
勿論Yumiの歌声が入ります。明日Printに出すので
1週間後にはParisのYumiの手に入るでしょう。

(編者注/avionは、航空機。Imageは、イマージュ、イメージ。
 作品はソプラノとオーケストラのための『波のイマージュ』(Image des vague pour soprano et Orchestre 1996)。


Images

(葛飾北斎 怒涛図)


何故体の痛みをこらえて作曲するのでしょうネ。
昔の兼好法師は恋の痛みのために歌を書いたとか....

(兼好法師は、吉田兼好(1283?-1352?)。歌人、随筆家。『徒然草』(つれづれぐさ)が代表作。和歌は『続千載集』・『続後拾遺集』・『風雅集』に計18首が収められている)。


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私は遠く離れたYumiを恋し、実際には会えないのだから
現実的に無です。

その苦しみの時間を消すために無意識的に
昔の人の歩んだ道を歩んでいるのでしょうね。



(次回更新時に「その2」へ続きます)。

2014年5月12日 (月)

≪声の幽韻≫松平頼則から奈良ゆみへの書簡 43

松平頼則氏に関しての奈良ゆみさんの所蔵する手稿など 27
(「松平頼則氏から奈良ゆみさんへ送られた手紙Fax」  第26回)。


<1996年3月27日>その3


Canonの様式は日本ではオゼブキ(追吹)といって音頭を追いぬくは失礼也などと仏教のジュ教的な教訓があったり……


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(編者注/Canonは、カノン。複数の声部が同じ旋律を始まる時点をずらせてそれぞれが演奏する様式。ポリフォニーの一つの典型。
雅楽の「おぜぶき」は「於世吹き」と表記される。笙の演奏時の息の使い方の用語。たとえば首大末小の「於世吹き」。
「追吹」(おいぶき)は西洋音楽のカノンに比較され得る。ジュ教は、儒教)。


2


今日Salzburgにつれていく若い作曲家が家に来ました。黒板に書く譜例を私の代りに書いてくれるのです。右肩が痛まなくてすみます。

Yumiが食事療法やジムナスティックで元気になるのは、とても嬉しい!
私もYumiが持ってきてくれたクマノ胃で元気になりました。ただちょっとFaxでは書けないフク作用がある(会った時話します)……

Tsubonoは未だ旅行中。Suntoryの企画に期待しましょう。

では又。       Pour Mr. Drake
Je t'aime pour toujours en attendant te voir.
      Je t'embrasse.   Ton Yoritsuné


32


(編者注/ジムナスティックは gymnastic、体操。クマノ胃は、漢方薬「熊の胆」。熊の胃ではなく胆嚢を乾燥させてつくる。健胃作用など消化器全般に効き、飛鳥時代から用いられていた。フク作用は、副作用。

Tsubono、坪野(?)氏については不詳。Suntoryは、サントリー。サントリー音楽財団はかつて『作曲家の個展'81 松平頼則』(1981.7.17)を開いた。

Pour Mr. Drakeは、ドレイク氏のために。奈良ゆみ氏によれば、Jeremy Drake(ジェレミー・ドレイク)氏はサラベール出版社に努めていたが、後に奈良ゆみ氏の音楽的な事務を手伝い、松平頼則氏のヨーロッパでのプロジェクトに力を注いだ。彼の尽力による「松平頼則作品目録」(フランス語)は重宝しているが、求め得る限り最も正確なものだ。



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Je t'aime pour toujours en attendant te voir.
      Je t'embrasse.   Ton Yoritsuné
いつも愛しています、あなたにお会いできるのを待ちながら。
   あなたに接吻をお送りします。 あなたの頼則         )。



(この項、3回で終わりです。また次回更新時に)。

2014年5月 5日 (月)

≪声の幽韻≫松平頼則から奈良ゆみへの書簡 42

松平頼則氏に関しての奈良ゆみさんの所蔵する手稿など 26
(「松平頼則氏から奈良ゆみさんへ送られた手紙Fax」  第25回)。


<1996年3月27日>その2

私のFigures SonoresのConstructionのカンクリザションは、シェーンベルクの月光のピエロNo.18‘月の斑点’に由来していることがわかったし、あの曲について長い評論を書いてくれたダルムシュタットのWolfgang Steineckeがセリー技法はシェーンベルクの発見が単なる技法だけでなく、民族的色彩と個性的nuanceがとられ得るのであることをFigure Sonoresは證明していると書いていますし、また色々なことがYumiの企画しているInterviewに入れたいと思われるのが沢山あります。


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(編者注/この段落は旧稿《声の幽韻26》に所収。日付が1998年となっていたのは1996年の誤りである。お詫びして訂正させていただく。
旧稿の注釈では、Wolfgang Steinecke(ヴォルフガンク・シュタイネッケ)とダルムシュタット夏季現代音楽講習会、さらにはそこに現れたピエール・ブーレーズ、ジョン・ケージらの往時の現代音楽について記している。併せてお読みいただければ幸いである。以下はそれ以外の語句の注釈。

Figures Sonoresは、『フィギュール・ソノール』(1956)。
Constructionは、造型、あるいは構築。
nuanceは、ニュアンス。


007

(シェーンベルク 自画像)

カンクリザションについては、今回新たに奈良ゆみ氏を通じて椎名亮輔氏のご教示を得ることができた。望外の幸せというほかなく、深甚の感謝を申し上げる。以下、2回にわたる椎名氏の言葉を引用させていただく。

《これは、cancrization すなわち、canon à cancrizans のことです。
日本語では「蟹行カノン」とか「逆行カノン」とか言います。
シェーンベルクの作品がヒントになりました。
この《月のしみ》は、器楽の部分が10小節目からすべて反対向きになって行くのです。ちょうど折り紙を真ん中で折り畳んだように》。



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《"cancrization" というフランス語はないと思います。
だからこれは松平氏が英語から類推したのか?
"cancer" はもちろん「癌」の意味ですが、「蟹」の意味もあるのです。
普通にはこれを名詞化すると、"cancérisation" という単語が出てきます。

またシェーンベルクの曲は正確には「カノン」ではありません。広い意味ではそうですけれど。例えばバッハの《音楽の捧げもの》の中には正確な「蟹行カノン」の例があります。
このシェーンベルクの曲は彼の「冗談」の一つで、ちょうど歌詞がピエロが自分の背中に写った「しみ」を見ようとして後ろを振り返る、というところで、音楽も「後ろを振り返る」わけです。

これを知ったのは確か、柴田南雄の本の記述だったと思います。
ハイドンの交響曲にも似たような例があります》。

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椎名亮輔氏の「カンクリザション」の解説の画像提示は、ピアノ版の楽譜の方が判りやすいだろう。上図、第9小節と第11小節の音符の並び。


松平頼則氏記述の「月光のピエロ」は、シェーンベルク作曲『月に憑かれたピエロ』作品21(1912)。Pierrot lunaire 。同じく「月の斑点」は、第18曲「月のしみ」。原題はDer Mondfleck。このシュタイネッケ氏の指摘はシェーンベルクにとっても松平頼則氏にとっても重要だと思う)。




(それではまた、次回更新時に)。

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