≪声の幽韻≫7
《声の幽韻》松平頼則作品集Ⅲ 奈良ゆみ(ソプラノ)ALM Records ALCD-94について その6
『想い出が翼を拡げるとき』6
(前回からの続きです。奈良ゆみさんの文章です)。
昨年の12月に毎年コンサートを催して下さいます、飯田精三さんにこのお話をすると「このことは、企業などが援助するのではなくて、我々一人一人が志を持って力を合わせ支えて行く日本の文化なのだ」と早速コンサートの折りにお客様にお話してくださって、私はそのお言葉をとてもうれしく思いました。
そして、飯田さんのお勧めも受けて正式に、みなさんにお願いをいたしますと、こんなにも熱くご支援を戴いて深く感激いたしております。また、同志社女子大学からも後援してくださることになり、いよいよCD出版が現実になりました。
実際の制作に当たっては、始めはこの制作を躊躇しながら受けて下さったALMのスタッフの方達も、全員が、もう数字などすっかり頭の上遥か遠くに飛んで行ってしまったように、最良の作品に仕上げる為に力を惜しまず励んでくださいました。
表紙のデザインだけでも、どれだけの案が届いたことでしょう。どれもこれも素晴らしく選びがたいものでした。私自身も、こんなに制作に関わったのは初めてのことで、ブックレットの校正などが、遅れに遅れ、でも何とか2月半ばに工場に見送るまでそれは大変な思いをしましたが、みなさんのお心に感動しながらのことでしたので、幸せでした。
松平先生に聴いていただけないことは淋しいですが、でも先生の魂が復活すると思えばうれしいことです。
この1月に石岡にある照光寺にお墓参りをしました。
録音風景をすべて映像に収められた,映画作家の宮岡秀行さんがレンタカーで連れて行ってくださいました。
亡くなられてから初めてです。お寺の住職さんも雅楽を演奏され、松平先生のご生前にはよくお話をされたと語って下さいました。
本堂に案内されると、そこには松平家代々の位牌がまつられ、先生と雪様のご位牌が一番新しく金色に輝いていました。
本堂は薄暗く、大きな阿弥陀如来が座していて天上からは極楽浄土の金色の飾りが下がっていました。松平先生の魂が天上に、極楽に、光に誘われて昇っていくように思われました。まさしく、この闇に浮かぶ極楽浄土こそが、松平頼則の世界だと思いました。
そのあと、日暮れ頃、東中野にあるあの先生のお家をお訪ねしました。11年過ぎてまだ残っているものかもう既に壊されて跡形もなく別な建物が建っていたらと、とても恐かったのですが、そのまま遺されていました。
小さな庭は枯れ草に覆われていましたが、藤棚は春を待つ固い芽をつけていたし、みかんの木は夜の中に緑の葉が艶やかに光っていました。
かまぼこ板の表札は上の部分が雨だれで半月形に朽ち落ちていましたが、かけられたままでした。あの扉の左の窓の格子の向こうで先生は仕事をしておられました。あの壊れたピアノも、楽譜が乱雑に重ねられた机は、今はどんな様子なのでしょう?
松平頼則先生の魂が,今、翼を拡げてこの新しい作品集から飛び立って行くことが出来ますように!新しい生命が育まれるとき、、、。
(この項はこれで終わります。次回からは松平頼則氏のことを)。
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